2017年に創設された心理の国家資格「公認心理師」。ここでは公認心理師の仕事や、公認心理師の資格を取得するために必要な受験資格、試験の概要、合格率などについてご紹介します。
公認心理師とは?
公認心理師とは、2017年9月15日に施行された「公認心理師法」に基づいてできた心理職の国家資格です。
公認心理師とは、公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。
(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
引用元:公認心理師 |厚生労働省より
(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
2014年6月に行われた公認心理師法案の趣旨説明では、日本の年間自殺者数が3万人近いことや、大規模な震災により被災者の方への心理ケアの重要性があらためて認識されたことが例に挙げられ、心の問題に対応できる質の高い心理職が必要だと述べられました。そして2017年に公認心理師法が施行され、心理職としての専門性を証明するための国家資格「公認心理師」資格が誕生したのです。
公認心理師は名称独占資格であり、「公認心理師」「心理師」の名称を用いることができるのは公認心理師の資格取得者だけです。
臨床心理士、認定心理士など民間資格で多く使われている「心理士」とは表記が区別されています。
公認心理師でない者は、公認心理師の名称又は心理師という文字を用いた名称を使用してはならない。(違反者には罰則)
引用元:厚生労働省-公認心理師法概要より
公認心理師の仕事内容
仕事内容
公認心理師の主な仕事は、心に悩みを抱えている人やその家族の相談に応じたり、心理的なサポートを行うこと。医療、保健、福祉、教育、司法・矯正、産業など様々な分野で活躍できます。
公認心理師の仕事は下記のとおりです。
1.心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
2.心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
3.心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
4.心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
参照元:公認心理師 |厚生労働省
1つ目はアセスメントと呼ばれるものです。本人の様子・行動を観察して状態をつかむ、質問紙や知能検査・発達検査などの心理検査を行うといった方法で対象者の心理状態を分析します。 分析の結果をもとに支援の方針や目標を決めていきます。
2つ目はカウンセリング。心に不安や悩みを抱えた方の話を傾聴し、支援していきます。基本的にカウンセラー側が答えを教えるのではなく、本人なりの答えを見つけることを大事にします。
3つ目はコンサルテーション。心の問題は本人一人のものではなく、親、友人、知人、上司、教師などさまざまな人たちと関連しています。関係者への面接やアドバイス、支援を行うのも公認心理師の仕事の一つです。
4つ目は心理教育。病院でのデイケアやグループワーク、学校での生徒や教職員に対する研修、企業でのメンタルヘルス研修などがこれに当たり、高いニーズがあります。
受験資格
基本的な受験資格
公認心理師になるには、受験資格を満たして国家試験に合格する必要があります。
公認心理師の受験資格で基本的なルートは下図A~Cの3つです。

A: 大学および大学院で指定された科目を履修し卒業
B: 大学で指定された科目を履修し卒業、かつ特定の施設で2年以上の実務経験
C: 上記2つと同等以上の知識及び技能があると認定される
参照元:一般財団法人 日本心理研修センター 公認心理師-受験資格取得ルート
これから公認心理師を目指す方は、AまたはBのルートで公認心理師試験の受験資格を得ることになるでしょう。
Cルートについては海外の大学や大学院で心理系の科目を履修している方などを想定しています。
大学・大学院で履修する指定科目
受験資格に必要な履修科目は下記のとおりです。座学だけではなく、大学では80時間以上の実習、大学院では450時間以上の実習が必要です。
■大学での指定科目■
- 公認心理師の職責
- 心理学概論
- 臨床心理学概論
- 心理学研究法
- 心理学統計法
- 心理学実験
- 知覚・認知心理学
- 学習・言語心理学
- 感情・人格心理学
- 神経・性心理学
- 社会・集団・家族心理学
- 発達心理学
- 障害者・障害児心理学
- 心理的アセスメント
- 心理学的支援法
- 健康・医療心理学
- 福祉心理学
- 教育・学校心理学
- 司法・犯罪心理学
- 産業・組織心理学
- 人体の構造と機能及び疾病
- 精神疾患とその治療
- 関係行政論
- 心理演習
- 心理実習
■大学院での指定科目■
- 保健医療分野に関する理論と支援の展開
- 福祉分野に関する理論と支援の展開
- 教育分野に関する理論と支援の展開
- 司法・犯罪分野に関する理論と支援の展開
- 産業・労働分野に関する理論と支援の展開
- 心理的アセスメントに関する理論と実践
- 心理支援に関する理論と実践
- 家族関係・集団・地域社会における理論と実践
- 心の健康教育に関する理論と実践
- 心理実践実習
実務経験が認められる施設
受験資格Bルートや経過措置のFルート(※経過措置については後述)では文部科学省・厚生労働省が認定する施設での実務経験が必要です。該当する施設を以下に記載します。
■実務経験の認定施設(受験資格Bルート・Fルート)
・少年鑑別所および刑事施設
・一般財団法人愛成会 弘前愛成会病院
・裁判所職員総合研修所及び家庭裁判所
・医療法人社団至空会 メンタルクリニック・ダダ
・医療法人社団心劇会 さっぽろ駅前クリニック
・学校法人川崎学園 川崎医科大学附属病院
・学校法人川崎学園 川崎医科大学総合医療センター
・社会福祉法人風と虹 筑後いずみ園
・社会福祉法人楡の会
参照元:厚生労働省-公認心理師法第7条第2号に規定する認定施設
公認心理師法 施行規則の第五条では学校、保健所、児童相談所、精神保健福祉センターなどが実務経験を積むための施設として想定されていますが、現在、公認心理師の実務経験プログラムに対応しているのは上記のリストの施設のみとなっています。
経過措置について
以下に該当する方には経過措置が設けられており、2022年9月14日までに実施される試験に限り受験が可能です。
■経過措置が適用される方
・2017年9月15日より前に大学や大学院に入学した方で、指定科目を履修している方
・実務経験が5年以上の方

D:公認心理師法の施行前に大学院に入学し指定科目を履修(あるいは履修中)
E:公認心理師法の施行前に4年制大学で指定科目を履修(あるいは履修中)で、公認心理師法の施行後に大学院で指定科目を履修
F:公認心理師法の施行前に4年制大学で指定科目を履修(あるいは履修中)で、かつ特定の施設で2年以上の実務経験
G:実務経験5年以上(※)で、現任者講習会を受講
(※)公認心理師法が施行された2017年9月15日時点で、心理の仕事から離れて5年以上経過している方は対象外
現任者講習会
経過措置Gルートについて、実務経験が5年以上の方は現任者講習会を受講することで公認心理師の受験資格を得られます。
経過措置は2022年の試験までの特例であり、講習会の開催は2021年度が最後です。Gルートでの受験をお考えの方は、必ず今年度中に現任者講習会を受講して下さい。(※実務経験の必要年数を満たす前であっても講習会の受講は可能です。)
■実務経験5年以上と認められる方
以下の条件をクリアする方が対象です。
■仕事の分野・施設
・保健医療:病院、クリニック、介護老人保健施設、保健所など
・福祉:障害者支援施設、福祉ホーム、児童福祉施設、老人福祉施設など
・教育:学校
・司法・犯罪:裁判所、刑務所、少年院、更生保護施設など
・産業・労働:広域障害者職業センター、地域障害者職業センターなど
・その他:私設の心理相談室など
(参照元:公認心理師試験-受験の手引きp53~54)
■仕事の内容
・心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
・心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
・心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
■実務期間
週1回以上の勤務を5年以上
(※公認心理師法が施行された2017年9月15日時点で、心理の仕事から離れて5年以上経過している方は対象外)
■現任者講習会の概要
現任者講習会は全30時間。オンラインで受講することもできます。
時間数 | 30時間 |
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カリキュラム | 公認心理師の職責 主な分野(※)に関する制度 主な分野(※)に関する課題と事例検討 精神医学を含む医学に関する知識 心理的アセスメント 心理支援 評価・振り返り (※)主な分野=保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働 |
試験概要と合格率
試験概要
公認心理師試験は年1回行われます。2021年度の試験は9月に実施されました。
試験日 | 2021年9月19日(日) |
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試験時間 | 240分 |
試験地 | 北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、岡山県、福岡県 |
出題数 | 154問 |
出題形式 | 4択または5択の選択形式 |
配点 | 一般問題:1問につき1点 事例問題:1問につき3点 |
合格基準 | 総得点230点に対し、得点138点以上 ※総得点の60%程度を基準とし、問題の難易度で補正。 |
合格発表 | 2021年10月29日(金) |
受験手数料 | 28,700円 |
合格率
これまでの試験実施状況と合格率は下記のとおりです。

第1回試験は第2回~第4回試験に比べて合格率が高くなっています。これは現役で心理職についている方の多くが第1回試験で受験したためと考えられます。
国家資格である公認心理師ができる以前、心理職の採用で最も重視されていたのが臨床心理士の資格です。臨床心理士は指定大学院の修了など厳しい受験資格を満たした上で試験に合格してはじめて取得できる難関資格。臨床心理士をはじめ専門性の高い方の受験が第1回試験に集中したために、この回の合格率が高くなったものと推測されます。
今後については 第2回~第4回試験の結果のように合格率は40~60%程度で推移すると思われます。
公認心理師の就職先
活躍の場
公認心理師は医療関係から教育、産業分野まで、幅広い分野での活躍が期待されています。
■保健医療■
病院、診療所(クリニック)、介護療養型医療施設、介護老人保健施設、地域包括支援センター、保健所、精神保健センターなど
■福祉■
障害福祉サービス事業、一般相談支援事業、特定相談支援事業、障害者支援施設、地域活動支援センター、福祉ホーム、障害児通所支援事業、児童福祉施設、児童相談所、認定こども園、老人福祉施設、発達障害者支援センターなど
■教育■
学校
■産業・労働■
企業内でのカウンセリング、外部EAP(従業員支援プログラム)機関、職業安定所(ハローワーク)、地域若者サポートステーション(サポステ)、地域障害者職業センターなど
■司法・矯正の分野
裁判所、刑務所、少年刑務所、更生保護施設など
■その他、私設カウンセリングルーム・相談室など
公認心理師資格のメリット
■ 医療分野ついて ■
保険診療の際に、医療行為などの対価として計算される診療報酬。診療報酬の対象となる心理職は公認心理師に限定されます。
たとえば、公認心理師が発達検査やデイケアなどを行った場合は診療報酬が発生しますが、公認心理師以外では診療報酬が発生しないようになります。
現在は経過措置として、2019年3月末時点で臨床心理技術者として保険医療機関に従事していた方や、公認心理師の受験資格のある方も公認心理師と同等とみなされますが、ゆくゆくは診療報酬の対象から外される見込みです。
診療報酬は、病院・クリニックの人件費、医療機器・医薬品の購入費、施設の維持費などを確保するのに役立ち、病院・クリニックの経営の安定に不可欠なものです。これから保険医療機関において、心理職の新規採用は公認心理師の資格を条件にするケースが多くなっていくかもしれません。
■ 教育分野について ■
学校現場で生徒や保護者、教職員を心理的にサポートするスクールカウンセラー。
スクールカウンセラーの募集要項は自治体によって多少異なる場合がありますが、多くの自治体では応募資格として公認心理師や臨床心理士を条件にしています。
■ 産業分野について ■
メンタルケアに対する関心の高まりから、事業者が労働者の心理的な負担の程度を把握するためのストレスチェック制度が2015年から実施されています。
2018年からは、必要な研修を修了した公認心理師も実施者として認定されており、産業分野での活躍も見込まれます。
まとめ
これから公認心理師を目指す方はまず大学に!
公認心理師は心理職で唯一の国家資格ということで、幅広い分野での活躍が期待されています。特に、医療機関、学校、自治体の運営する福祉サービス事業など、公的な機関・施設での心理職採用では公認心理師の資格が必須になっていく可能性もあります。
これから公認心理師を目指す方は、まず大学で指定科目を履修する必要があります。
公認心理師カリキュラムに対応した通信制大学もありますので、チェックしてみてください。
「公認心理師の資格は難しい…」と思った方へ
公認心理師は大学での履修や国家試験の合格が必要な資格であり、資格の取得までに時間も費用もかかります。
「心理カウンセラーの資格に興味はあるけれど、公認心理師資格の取得は難しい…」
と感じた方も多いのではないでしょうか。
公認心理師以外にも、心理カウンセラー関連の資格(民間資格)は多くあります。
取得の難度や価格のハードルを下げて、心理学やカウンセリングの知識を身につけるという選択肢もあります。資格を取得できるスクールや通信講座を検討してみるのもいいでしょう。