人の話しばかり聴いてしんどくならないの?
私は長年心理カウンセラーとして活動していますが、よく知人や周りの人から「いつも人の話しばかり聴いて疲れたりしんどくならないのか」とよく問われます。
結論から言えば、話しを聴いて疲れたりしんどくなることはありません。
それはクライアントとカウンセラーの間にしっかり境界線を引いているからだと感じます。
相談にいらっしゃる人は、やはり何らかの悩みや問題を抱えています。中にはどう生きれば良いのかわからなくなったり、人生そのものに嫌気が差して自暴自棄になってしまう、といったようなご相談をいただくこともあります。しかし、どのような問題でも、クライアントの悩みに引きずられて一緒になってしんどくなってしまうと、更なる混乱や不安を巻き起こしてしまうことになります。
クライアントの話しを傾聴し、受容し共感するのは基本的に大切なスタイルです。共感を通して、クライアント自身が自発的に気づきを得て前進していくことを見守ります。しかし共感を飛び越えて同調や同感になってしまい、自分のことのように一緒になって辛くなったり悩みの渦に巻き込まれていくのは違います。
必要以上に相談者の悩みにのめり込んでしまうと、確かに疲れたりしんどくなることもあるでしょう。それが原因で残念なことに心理カウンセラーを辞めてしまう人も実際に存在します。
そこで大切なことは、カウンセラー側が普段からきちんと自分の感情や気持ちを整理しておくことです。
心理学には「投影」という概念がありますが、カウンセラー側が問題だらけで人間関係にトラブルを起こしていたり、自己否定が強いと、それを無意識的にもクライアントに投影してしまうので、人の話しを聴いているのにまるで自分の痛みを見せつけられたようになってしまうのです。すると、とても疲れてしまったりしんどくなってしまうこともあるでしょう。
では、カウンセラー自身が病まないためには具体的にどういうことが必要なのでしょうか?
カウンセラー自身が病まないために
心理カウンセラーと言えど、普通の人間には変わりありません。どれだけ心の勉強をしていて、どれだけ知識を得ていたとしても、やはり問題が発生することもあるでしょうし、壁にぶつかってしまうこともあります。
また、自分の慢性的な問題や悩みをそのままにしておくと、自分と似たような問題や悩みをもったクライアントがカウンセリングにきたときに、混乱が起きることもあるでしょう。カウンセラー自身が自分の問題に捉われてしまい、不安の渦に巻き込まれたままクライアントの話しを聴くと、やはり投影が起こり痛みがでてくる場合もあります。
そうならないためにも、セルフカウンセリングを普段からできるように練習することが良いかもしれません。セルフカウンセリングとは自分で自己を肯定する、自分の心と向き合う、ということです。それを実践することで、クライアントとカウンセラーの間にしっかり境界線をつくることにも繋がるかと思います。セルフカウンセリングで自分の心を整えていく、というのはカウンセラーには必要なルーティーンワークかもしれません。
しかしセルフカウンセリングだけでは限界が生じることも時にはあるかもしれません。そんな時には、カウンセラー自身も初心に戻って心の勉強をしたり、心理学のセミナーに出ることも良いのかもしれません。私自身も心理カウンセラーとして長年活動していますが、自分の勉強と更なる自己成長のために、未だに機会があれば様々な心理学のセミナーを受講することもあります。
他人の知恵や知識を取り入れる、自分の問題や課題と向き合う、カウンセリングをスキルアップするために勉強をする、といったことも自身が病まないために必要なことかもしれません。今はインターネットで調べれば、様々なところで心理学セミナーが開催されているのがわかります。自分の興味のあるものや、成長に繋がるかもしれないと思うセミナーを探してみてはいかがでしょうか。
共感と同調
共感と同調の区別をしっかり使いわけることも大切です。共感は常に相手の感情になって考えます。
例えば、「お母さんがとても過保護で、自由がなく困っている。お母さんに怒りを感じる」といったご相談の場合、
「お母さんにとても腹が立ちますね!」
とクライアントと一緒になって母親に怒りを向けてしまうことは同調です。まるで共感にはなっていません。
共感とは、
「あなたは今そう感じているんですね」
「辛い気持ちを抱いているのですね」
と相手の感情をただ肯定し、ただ認めるのです。
同調を繰り返してしまうと、クライアントとカウンセラーの間の境界線が曖昧になってしまい、同じように辛くなり同じようにしんどくなるといった出来事も起こりうるのです。
クライアントに更なる混乱や不安も招かないためにも、共感と同調の区別をしっかりと認識しておきましょう。