日常にあふれるツァイガルニク効果!
ツァイガルニク効果とは
心理現象の一つにツァイガルニク効果というものがあります。どういう効果か簡単に説明すると、人は達成できた事柄よりも、達成することができなかった事柄や中断している事柄の方を強く覚えている、という現象のことを指します。ツァイガルニック効果、ゼイガルニク効果、ゼイガルニック効果と呼ぶこともあります。
試験でのツァイガルニク効果
このツァイガルニク効果、実は私たちの日常で非常に多く存在します。例えばテストが終わったあと「あ!あの問題まちがえたかも!」「あの問題、解けなかったなー」と悔しい思いが頭をぐるぐるしませんでしたか。実際は正解した設問もたくさんあるのに、思い出すのは自分の未達成のものばかりで、そんなことを繰り返し思い出しているうちに、テスト自体が全然できなかった気がしてしまいますね。
恋愛でのツァイガルニク効果
恋人から急に別れを告げられると、言われた側は続きが突然絶たれ、未完の状態になって、相手のことが逆に気になって忘れられなくなってしまうこともあります。未練がましいという言葉もありますが、もともと振られた側はすぐには諦められないようにできているのですね。他にも、想っただけで終わってしまった初恋、叶わなかった恋なんかも、よく思い出せるのではないでしょうか。
テレビ・インターネット上でのツァイガルニク効果
テレビでも「続きはCMのあとで!」「60秒後!更なる感動があなたにやってくる…!」などと中断させられて、結末やクライマックスがわざと先送りになり、続きが気になってしまいます。ドラマやアニメも、終わり間際にどんでん返しや衝撃的な出来事が起こって、この後どうなるのだろうと期待や不安を抱かせる展開で終わり、次回予告で断片的に続きを見せられ、翌週もついつい同じ番組を見てしまいます。
インターネット上でも、ニュースのコンテンツが最初の1ページ目だけは無料で読めるのに、2ページ以降は会員登録が必要で有料になるというものがあります。1ページ目を読んでしまっているので、やはり続きが気になってしまうのではないでしょうか。アプリでのマンガもそうで、1話や1巻分が無料なので読んでしまうと、次が読みたくなり、ついつい登録してしまう、ということも起こります。
知りたい内容や興味の対象を一旦遮断されることで、より強く気になってしまうというのは、ツァイガルニク効果の基本的な原理です。
実験!完了したものと未完のもの、どちらを覚えている?
クルト・レヴィンによる仮説
元々はドイツのゲシュタルト心理学者であるクルト・レヴィンが、レストランのウェイターは支払い前の客の注文はよく覚えているのに、支払いが終わった後にはほとんど何も覚えていないことに気づき、「人は目標に向けて行動するとき緊張感が生まれ持続するが、目標を達成することでその緊張感は解消される」という仮説を立てました。
ブルーマ・ツァイガルニクによる実験
ソビエト連邦(現ロシア)の女性心理学者であるブルーマ・ツァイガルニク(Bluma Zeigarnik)が実験でその仮説を検証します。
■ ブルーマ・ツァイガルニクの実験 ■
実験では被験者の教師や学生、子供、164名にいくつかの作業を行わせます。パズルを解いたり、ダンボール箱を組み立てたり、粘土細工を作るなどの簡単な軽作業です。
実験中、ブルーマ・ツァイガルニクは無作為かつ定期的に被験者の作業を中断させ、別の作業を行わせました。作業を中断させられる被験者もいれば、全く邪魔が入らずに作業を終えた被験者もいます。
実験後、被験者は割り当てられた20前後の作業を、覚えている限り書き出すように命じられます。
単純に考えれば作業が長く継続できている「完遂した仕事」が記憶に残りそうな気がしますが、結果は逆で、「中断させられた作業」が90%多く記憶されていたそうです。なんと倍ほどの違いがあるのですね。被験者たちが作った作業リストの上位は、ほとんど中断させられた作業で占められていました。
実験により「中断された課題や未完の課題は、達成済みの課題より想起されやすい」という結論に至り、これに自身の名前をとって「ツァイガルニク効果」を提唱するようになりました。
仕事でツァイガルニク効果を活用するには?
あえて「キリの悪いところで終わらせる」!
ではツァイガルニク効果を活用するにはどうしたらいいでしょうか。
達成しようと思っていたものを中断されると、一種の緊張状態になり、無意識のうちにその課題を達成させようとします。始めたものは終わらせたくなるのですね。
これを活かして、仕事や勉強であえて「キリの悪いところで終わらせる」というのはツァイガルニク効果を使った1つの方法です。人はどうしてもキリのいいところまでやりたくなるのですが、そうすると脳の中では完結したこととして忘れてしまい、次に取り掛かるのが億劫になってしまいます。
勉強でツァイガルニク効果を活用する例
例えば学生時代、単語をここまで覚えようとキリのいいところで終わって休憩したら、気分転換にとお菓子を食べ、マンガを読み、友達と話してしてしまい、なかなか次の勉強に進めなかったことはありませんか。あえて途中で切り上げて休憩したり、翌日まで持ち越したりすると、手を止める前の作業のことが記憶に強く焼き付けられ、頭の中で完結させようと働き続け、続きを再開した時には良い緊張感でスムーズに取りかかれます。
仕事でツァイガルニク効果を活用する例
例えば私自身、コラムを書く際にはまず色々な文献や論文をインプットした上で、全体像のプロットを作り、そこで寝ることにしています。そうすると脳が働き続けてくれるのか、朝になると「構成はこっちの方が分かりやすいかな」「あそこにこれを付け足そう」「自分のこのエピソードも使える」など色々なアイデアが浮かんでくるのもあり、さっとコラム作りに取りかかれます。
会議もあえて議題の途中などキリの悪いところで休憩を挟むと、皆がよく集中して再開できるでしょう。何事もあえて中途半端なところで中断することで、業務の生産性が上がる、あるいは続きが気になって高い集中力でリスタートできるので、ぜひ活用してみてください。
やり残しのタスクが多すぎるとストレスに
それとは矛盾するようですが、やり残しのタスクがあまりにも多いと、それもストレスになります。人間の無意識は完成に至ることを求めており、未完のものは完成に至るまで意識に残り続けます。
確かにやらなきゃいけないけど先延ばしになっているもの…例えば急ぎじゃない手紙の返送や振り込み、友人への返信、免許の更新、アルバム作り、換気扇の掃除などの大掃除、時折「あー、あれやらなきゃ」と思い出し、少しモヤモヤした気持ちが浮かび、結局後回しになり、あとでまたその繰り返し…なんてことはないでしょうか。日常はすぐに対応できるものに追われ、緊急度の高いものや負荷が高いものは先延ばしにされがちです。
やり残しは「スケジュール帳に記載」してスッキリ!
こういった場合は、「スケジュール帳に記載する」ことで、脳は完結したと思いスッキリでき、解決するそうです。
実際にタスクそのものを終わらせる必要はなく、予定を立てるだけでモヤモヤが克服できるのですね。確かに何度もやらなきゃいけないことを思い出して不快になるより、その時にやると決めておいて、あとは思い出さないようにした方が脳も休まりますし、気がラクですよね。
恋愛でツァイガルニク効果を活用するには?
相手に「未完成の感情」を与えることが大事!
恋愛でもよくツァイガルニク効果の活用がいわれます。
相手の気持ちを引きつけるためにはどうしたら良いか考えてみましょう。相手に「未完成の感情」を与えることが大事なので、気になる人ができたら、自分の情報はあえて小出しにしていくのが良いかもしれません。
どうしても相手を好きになってしまうと、自分のことを早く知ってもらいたい、相手のことをたくさん知りたいと思いがちですが、一気に自分の情報を与えるよりも、小出しにした方が「もっと相手のことを知りたい」という未完成の感情が生まれて、より相手に惹かれやすいのです。
モテないと悩んでいる人と、モテる人の違い
例えばモテなくて悩んでいる友人をよくみていると、自分のことをさらけ出すと言わんばかりに、初対面からなんでも包み隠さず話してしまいます。あっけらかんとしすぎて、周りはそれ以上知ろうという気持ちになりにくいのかもしれません。逆にすごくモテる友人は、どこかミステリアスで、多くを語らず、周りに「もっと知りたい」と思わせるのが上手でした。
デートやLINEで活用できるツァイガルニク効果の例
つまり最初のデートではあまり自分のことをなんでも知ってもらおうと意気込まず、あえて少しずつ伝えて、デートは不完全燃焼だったなと思えるくらいで切り上げ、関係が深まるうちにこんな面もあったのかと発見してもらう方がいいのかもしれません。
完璧なデートは目指さず、水族館で一つだけショーをみそびれた、テーマパークで乗れなかった乗り物があった、レストランで他にまだ食べたいデザートがあったなど、少し未完の経験があると、次のデートにつながりやすいかもしれません。
LINEなどで連絡を取り合う人も多いと思いますが、だらだらと取り留めのない話を続けるよりも、途中で切り上げたり、ちょっと間をおいてあとから送るなど、未完了のまま気になる状態を作ってもいいかもしれませんね。
もちろん大事な話の途中で勝手に終わらせてしまうと信用を失ってしまう恐れもありますので、注意しましょう。
まとめ
いかがでしたか。達成できなかったことや中断したものが記憶に残るツァイガルニク効果。脳は中途半端なものを完了させようと働いてくれるので、タスクのうち、じっくり考える必要があるものはあえてキリの悪いところ切り上げ、休んでいる間に脳に働いてもらい、次の機会にすぐ集中して取り掛かりましょう。仕事が繁忙期で忙しくて頑張りたい時や、勉強に集中して取り組みたい時に使ってみてください。
逆に単に先延ばしになっているだけのタスクは、スケジュール帳に記入して、頭をスッキリさせてあげましょう。頭に余裕ができるといいアイデアも浮かびやすくなりますし、ストレスも少なくなります。
恋愛でもぜひ未完の経験を作り出して、うまく関係性が築けるといいですね。
ツァイガルニク効果、自己成長にも人間関係にも、ぜひ活用してみてください。
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■参考文献■
・ケビン・クルーズ(2017)『1440分の使い方―成功者たちの時間管理15の秘訣』、木村千里訳、パンローリング株式会社
・ベネディクト・キャリー(2015)『脳が認める勉強法−「学習の科学」が明かす驚きの真実−』花塚恵訳、ダイヤモンド社
・Zeigarnik, B: On finished and unfinished tasks; In W.D. Ellis(Ed.), A Source Book of Gestalt Psychology, New York: Humanities Press, pp. 300-314(1938).