仕事に心理学は活かせるの?
「ビジネスのハウツー本」は、書店にいけば沢山あり、私もたまに読むのですが、心理学の知識を応用しているハウツーが結構多いのです。
私は心理カウンセラーになるために、社会人として実際に働きながら心理学を学ぶスクールに通っていたのですが、同じ机で学んでいた仲間の中でも、
「仕事の人間関係で行き詰まってしまったので心理学を学ぼうと思った」
「モチベーションが上手く上がらずにすぐ転職したくなる。どうにかしたいと思って勉強しようと思った」
など、仕事に関しての悩みで心理学の門を叩く人も大勢いました。
日本人は諸外国の人に比べて、とても勤勉で真面目と言われています。多くの人は1日の3分の1ほどの時間を仕事に費やして過ごしています。そこに残業などが加算されると、「気づいたら1日の半分くらいは仕事をしている」なんていう人も多いのではないでしょうか。
それぐらい多くの時間を私たちは仕事に費やしているわけですから、その仕事自体に苦しい感情を抱いてしまうと大きなストレスを抱えてしまうことになります。実際に仕事上のトラブルや仕事上のなんらか関係のことから、ウツ病などの精神疾患に発展してしまう例も多くあります。
そうなる前に心理学を学ぶことによって、仕事とうまく付き合っていくことができるようになります。より良い状態で仕事に邁進するためにも、心理カウンセラーの知識はとても役に立つと言えるでしょう。
心理学を活かした心理分野の仕事
公認心理士
公認心理士は2017年に心理系で初めての国家資格として誕生しました。
主に医療現場で、医師の指示のもと患者の心理分析や支援・指導の提案、情報共有などを行います。
公認心理士は更新の必要がないので、一度取ってしまえば心理分野で長く働くことができます。
臨床心理士
臨床心理士は民間資格ではありますが、心理分野での認知度が高く、公認心理士よりも歴史も長いため信頼されている資格です。
難易度も「指定の大学院または専門職大学院を修了することが必要」で、公認心理士と同等の知識が必要です。そのため、医療現場の求人には「公認心理士または臨床心理士の資格保有者」と指定されていることも多く、国家資格と同レベルの資格として扱われています。
業務内容は公認心理士とほぼ同じで医師と連携して患者の心理分析や支援・指導の提案、情報共有などを行います。
産業カウンセラー
産業カウンセラーは企業に勤める会社員や経営者のメンタルケアを専門に行うカウンセラーです。
そのため、悩みの内容も職場の人間関係や仕事の悩みなどデリケートなものが多くなります。
自身の社会人経験を仕事に活かせるので、社会人からの転職やセカンドライフとして産業カウンセラーになる方も多くいます。
スクールカウンセラー
スクールカウンセラーは小中学校、高校、特別支援学校、大学などの教育現場で生徒やその保護者、教員のメンタルケアを行うカウンセラーです。
いじめや不登校など問題を抱えている生徒のケアはもちろん、保護者や教員へのアドバイスや事前防止のために講習会を開くなど業務は多岐にわたります。
一つの学校に常駐することは珍しく、たいていは何校かを掛け持ちしています。
メンタルトレーナー
メンタルトレーナーはスポーツ選手や経営者、アーティストなどのメンタルを整え、ベストなパフォーマンスができるようにサポートする仕事です。
相手の課題を明確にするカウンセリングと、課題解決の方法をアドバイスするコーチングの力が必要になります。
法務技官・矯正心理専門職
法務技官は矯正心理専門職とも呼ばれ、留置所収監の受刑者や非行に及んで少年院に収監された未成年者の社会復帰をサポートする仕事です。
どんな経緯で犯罪に及んだのか、その経緯や心理を分析して、社会復帰に向けた「更生プログラム」の構築などを行います。
法務技官は公務員なので、心理学の知識に加えて公務員試験に合格する必要があります。
心理学を活かせる心理分野以外の仕事
キャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントは、個人のキャリア形成や職業選択などを支援するのが主な仕事です。適性やライフプランをカウンセリングして、適切な職業選択に必要なアドバイスをします。
人材派遣会社や大学のキャリアセンター、企業の人事部など活躍の場は複数あります。
人事コンサルタント
企業の経営課題を明らかにし、その解決のための助言・支援をする「経営コンサルタント」の一つで、人事に特化した業種です。
クライアント企業の採用・人事戦略の策定や人材育成カリキュラムの構築、組織・人事評価制度の刷新などのアドバイスをし、場合によっては前線に立って施策の実行まで行います。
マーケティング職
マーケティングは「どうしたら自社の製品を消費者に受け入れてもらえるか」を考える職業です。マーケティングは「消費者心理」と密接にかかわっており、心理学とのつながりも深い分野です。
市場の動向を調査・分析し、心理学の観点から消費者の興味のきっかけや購買行動に繋げるためのプロセスを考案していきます。
教育業界
心理学には「教育心理」という分野があり、「学習においてどのような工夫をすれば勉強しやすいか」といった知識を身につけることができます。
これを活かして学校の教員や学習塾の講師、あるいは教科書などの教材を作る企業へ就職する方もいます。
営業職
自社の製品やサービスを売り込む営業職に必要な「カウンセリング」と「クロージング」は心理学を通して十分に学ぶことができます。
カウンセリング力で相手の悩みを引き出したり、深層心理を分析して本当に必要としているものを提案することで商品やサービスに興味を持ってもらいやすくなります。
そして、相手の不安や迷いを解決するアドバイスをすることで「クロージング」につなげ、成約率をアップさせることができます。
心理カウンセラーの知識を人間関係に活かす具体例
まず、仕事でストレスを抱える原因となる1つに「仕事での人間関係の悩み」があります。
実際に私が心理カウンセラーとして働く中でも、
「上司と全く意見が合わず上手く付き合えない」
「同僚に強い競争心を抱いてしまって顔を合わせるのが辛い」
「お局さんに目をつけられ嫌がらせを受けているので会社に行くのが怖い」
など、仕事上での人間関係に頭を抱えている、とても多くのクライアントに会ってきました。
逆にキャリアアップのための悩みや仕事上での自己実現の悩みなどはあまり聴いたことがありません。そういった前向きな悩みも心理カウンセラーとしては伺ってみたいと感じますが、やはり仕事上の多くの悩みは、人間関係に集約されていると感じています。
上司を好きになれないのは親子関係の影響?
人間関係で悩んでしまう原因の1つに、自分の親子関係が関与していると言われています。心理カウンセラーになるための勉強をする際に、自分の親子関係について考えてみる機会が与えられるのですが、私たちの人生に元々の家族関係はあらゆることに反映されているのです。
例えば、「上司と全く意見が合わずに上手に付き合えない」という悩み。これは、自分の家族の中で一番権威を持っていた人を上司に投影しているという現象が高確率で起こっています。
父親がとても威圧的であまり愛情表現をせず、父親の言うことには絶対に従わなければいけないという家庭に育ったとします。すると父親とは情緒的交流が持てないので、父親と必然的に距離ができてしまいますよね。
距離が空いている上に、いつも父親の顔色を伺って発言したり気を遣っていたのだとしたら、子どもの時代を経て大人に近づくにつれて『自分にとって父親は嫌な存在である』と認識するようになります。
そして社会人になって上司と対峙したときに、「相手が年上で権威のある立場」というだけで瞬間的に父親の顔を上司に貼り付けてしまうのです。
すると、なぜだか上司に良い感情を持つことができず、上司の言っていることはどんなことでも反発したくなったり嫌悪感を抱くようになってしまうのです。
これは上司とあなたの問題と言うよりかは、本質は『あなたと父親の問題』なのです。権威をもっていて高圧的だった父親への怒りや悲しみの感情を見ないふりをして隠している分だけ、上司とトラブルを起こすようになってしまいます。そうならないためにも、父親に感じていた怒りや悲しみを解放することが良いパターンも実際に多くあります。
もし心理学を学んでいてこのような知識があれば、「上司に腹が立っているのではなくて、本当は自分の父親に腹を立てているんだな」と気づくことができます。自分で気づくことができると、上司に対しての感情にも変化がでてくるでしょう。必要以上に嫌悪感を持たずに済むかもしれません。このように、上司との関係性を円滑にするためにも、心理学の知識があると役立つことでしょう。
『頼りベタ』も親子関係から
また「どうしても仕事を休めないのが悩みです」という人も多くいます。
有給も全く使わず、他人の仕事も頼まれたら嫌とは言えず必要以上に抱え込んでいるのに、「休みをください」と言えないタイプの人は、どうやら日本人に多いようです。要は「一人で頑張りすぎてしまう」ということです。
そもそも頑張っている人というのは、「自分が頑張りすぎている」という自覚のないままキャパオーバーしてしまい、ウツ病や精神疾患を引き起こしてしまうケースも多くあります。
いわゆる燃えつきてしまった状態に当てはまります。
一人で頑張りすぎてしまう人は、「誰かに頼る」ということが課題になります。
「誰かに頼ることは迷惑をかける」と思い込んでいる人が多いのですが、それにも自分の親子関係が反映されているケースが多いのです。
例えば子どもの時に「母親に甘えたかったけれど仕事が忙しそうで甘えられなかった。甘えることはいけないことなんだ、迷惑なんだ」という経験をすると、極端に人に頼ったり甘えたりすることが苦手になるケースもあります。
もしそう言ったことを心理学の知識として知っていると、「仕事を休めなくて誰かに頼れないのは自分の子どもの時の経験からきているんだな。でも今回は勇気を出して休みたいと言ってみよう」など、原因がわかれば対処法もわかることも沢山あります。
他にも心理学の知識を活かし仕事に応用できることは山ほどあります。営業マンにとっては大事な心理的かけ引きなどもありますが、心理カウンセラーとしての知識を活かすのであれば、やはり「仕事上での人間関係」や「自分のセルフマネジメント」などと相性がよいです。心理学の知識を取り入れて、より豊かで充実した毎日を送れると良いですね。
心理カウンセラーの知識を営業・販売に活かす具体例
相手と関係性を築く
相手との関係性を築く上で、第一印象は大切です。
『メラビアン効果』では、人がコミュニケーションをする上で、話し手が聞き手に対して与える影響力は、話す内容などの「言語情報」が7%、声のトーン・話す速度や大きさ・口調などの「聴覚情報」が38%、見た目・しぐさ・表情・ジェスチャーなどの「視覚情報」が55%という割合になり、いかに非言語コミュニケーションが大切であるかを説いています。
提案に興味を持ってもらう
例えばセキュリティソフトを売る際に、「様々なパスワードを管理するのが大変だと感じていませんか?」と相手に質問します。すると相手は「自分たちのことを分かってくれている」と感じてその後の話に耳を傾けてくれやすくなります。
これは、誰にでも当てはまることを、さも特定の相手だけに向けて言い当てているように見せる『バーナム効果』を用いたテクニックです。
成約につなげる
消費者心理として『マッチングリスク意識』を抱く人が多くいます。これは、商品・サービスには納得しているが、自分に合わなかったらどうしようという心理です。
ここで「もう一押し」と強いアピールをしてしまうと、『ブーメラン効果』によって失敗しかねません。人はあまりに必死にアピールされると、怪しさや不信感を感じ、そのアピールに対して否定的になるためです。
焦らずに『オープンクエスチョン・クローズクエスチョン』を繰り返して相手の不安を解消してあげることで、成約率は飛躍的にアップするはずです。
心理カウンセラーの知識をマーケティングに活かす具体例
興味を持たせる
購買につなげる第一歩は、その商品やサービスに興味を持ってもらうことです。
興味を持たせるテクニックとして『ハロー効果』というものがあります。これはある対象を評価する際に目立つ特徴が与える印象によって評価が変わってしまう(歪めてしまう)ことを指しています。
例えば「口コミサイトで高評価を得ている」「有名芸能人が宣伝している」などの商品は、自分が使ったことがなくても何となく「良いもの」と思い込んでしまうのがハロー効果です。
また、キャッチコピーに「みなさん」など誰にも当てはまる文言を使うよりも、「50代男性のあなた」など特定のターゲットに向けた文言を組み込む方が興味を持ってもらいやすくなります。
これは、多くの情報の中から自分に関係する部分だけ聞き取る脳の働きを利用した『カクテルパーティ効果』といいます。
購入を促す
大衆的な日用品などを売る際には『バンドワゴン効果』がよく使われます。これは「行列ができるラーメン屋」「3人に1人が使用しています」など、「みんなやってますよ」とアピールすることによって集団心理に訴えかけるテクニックです。
反対に、高級品には『スノッブ効果』が有効です。スノッブ効果は「人と被りたくない」「自分だけが良さを知っていたい」という心理に働きかけるものです。
「それに目をつけられたのはあなただけです」「実は日本にはまだ5つしか入ってきていない」といったアピールが有効です。
売上アップを狙う
例えば「年間12,000円」と「月額1,000円」の商品はどちらも同じ価格ですが、「月額1,000円」の方が安く感じ購入率がアップします。このように数字の表現によって与える印象が変わることを『シャルパンティエ効果』といいます。
ほかにも、5000円のお皿が全然売れなかったので、8000円の値札を貼りその上から「3000円引き→5000円」と表記したところ売れたという事例があります。
これは、そのものの価値や相場が分からないとき、人は値引きされる前の情報をもとに値引き後の価格が得か損かを判断する『アンカリング効果』を用いたものです。